東京高等裁判所 昭和55年(ネ)1522号 判決 1981年5月18日
控訴人
藤岡みつゑ
控訴人
藤岡庄蔵
右両名訴訟代理人
成毛憲男
被控訴人
藤岡優
主文
本件控訴をいずれも棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事実
控訴人ら訴訟代理人は、「原判決を取り消す。本件を長野地方裁判所大町支部に差戻す。」との判決を求めた。
被控訴人は、公示送達による適式の呼出をうけたが、本件口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しない。
控訴人らの事実上の主張は、次のとおり付加するほか、原判決別紙記載の「請求の原因」のとおりであるから、これを引用する。
民法第九〇三条に関する「相続分のないことの証明書」は、印鑑証明書を付して広く相続登記について遺産分割協議書に代る効用を発揮していることは、取引界における明白な事実であり、複雑な権利関係を示すことが多い相続問題における最大の解決文書といつても過言ではない。民訴法第二二五条が証書真否確認の対象として「法律関係」を証する書面の真否と規定し、「法律行為」のそれと定めていないこと及び「相続分のないことの証明書」について成立の真否確認の訴を認めることが相続関係の紛争の解決に資すること等を考え合せれば、被控訴人が被相続人亡藤岡龍蔵の相続に関して署名捺印した「相続分のないことの証明書」について真否確認の訴が認められるべきである。
理由
一控訴人らの主張によれば、本件真否確認の訴の対象である被控訴人作成名義の「証明書」と題する書面の記載内容は、「私は、被相続人(亡藤岡龍蔵)から、生前、財産の贈与を受けており、被相続人の死亡による相続については、相続する相続分の存しないことを証明します。」というのである。
二そこで、右「相続分のないことの証明書」が民訴法第二二五条にいう法律関係を証する書面に該当するかどうかについて検討するのに、同条にいう法律関係を証する書面とは、書面自体の内容から直接に一定の現在の法律関係の成立存否が証明されうる書面を指すものと解すべきところ、右証明書は、その作成名義人である相続人が被相続人から相続分以上の生前贈与をうけたことを理由として相続分がないことを証明せんとするものであるが、右書面の記載内容に徴すれば、その生前贈与の内容、価額及び相続分の価額等が具体的に明らかにされているわけではなく、単に漠然と被相続人からの生前贈与があつたという記載があるにすぎないから、右書面によつて相続分以上の生前贈与があつたという法律的事実が証明され、かつ、それによつて相続分がないという現在の法律関係が証明されていると解することはできない。
控訴人らは、「相続分がないことの証明書」が遺産分割協議書に代る文書あるいは相続関係解決の文書として機能していることを挙げて、右証明書が法律関係を証する書面であると主張する。しか判旨し、右証明書が生前贈与の事実証明を離れて、遺産分割協議あるいは相続分の譲渡を証する処分証書の性格を有する書面と解しえないことはその記載内容自体からみて明らかであるばかりでなく、仮に右証明書が、所論の如く、遺産分割協議あるいは相続分の譲渡等の処分証書の代用書面として作成されることがあるとしても、右証明書によつて右遺産分割の協議等が直接証明されているわけではないから、右証明書をもつて証書真否確認訴訟の対象たる書面ということはできない。したがつて、控訴人の右主張は採用することができない。
三よつて、右証明書が民訴法第二二五条所定の法律関係を証する書面に該らないことを理由に本件訴を却下した原判決は相当であつて、本件控訴はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について同法第九五条、第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。
(渡辺忠之 糟谷忠男 渡辺剛男)